仙台高等裁判所秋田支部 昭和42年(ラ)6号 決定 1967年3月03日
秋田銀行
理由
一、抗告人は相手方らとの間の昭和四一年一一月五日付追加抵当権設定契約により別紙目録記載の不動産(以下本件不動産という)につきそれぞれ一番抵当権を取得したが、登記義務者たる相手方らは右登記手続に協力しないとして、本件仮登記仮処分の申請をなしたものであること、原裁判所は「不動産登記法第二条第一号にいわゆる手続上の条件が具備しない場合とは、登記義務者の協力が全く得られないため本登記手続ができない場合を含まないと解すべきところ、抗告人は本登記の申請に必要な手続上の要件が具備していないことについては、相手方らにおいて本登記手続に協力しないこと以外何らの主張ならび疏明をしないから本件申請は理由がない」として前記抗告人の申請を却下し、これに対し抗告人から本件即時抗告がなされたものであることは本件記録上明白である。
二、ところで、仮登記義務者が仮登記の申請に協力しないときは仮登記権利者は不動産登記法第三二条及び第三三条の規定に従い、仮登記仮処分命令の正本を申請書に添付することによつて仮登記権利者単独で仮登記を申請することができるのである。
右仮登記仮処分命令を得るためには、仮登記原因を疏明することが必要であるけれども(同法第三三条)、右仮登記原因の疏明とは、登記を要する実体上の物権変動が生じていること及び登記義務者がその登記に協力しないことの疏明であって、双方申請による仮登記の場合に要求される形式的条件(第三者の許可書、同意書等のけん欠等)の疏明までを必要とするものではない。
けだし、仮登記仮処分は登記義務者の協力を得てする通常の仮登記手続のほかに、法が特に簡便な仮登記の方法を規定したものと解すべきであるから、その場合は、登記義務者が本登記にも仮登記にも協力しないことは、それ自体同法第二条第一号の「手続上の条件が具備しないとき」にあたるものと解するを相当とするからである(福岡高等昭和三五年二月二六日決定、高裁例集一三巻一号一一〇頁参照)。
三、しかして抗告人提出にかかる疏明書類によれば、抗告人は昭和四〇年九月一八日相手方樫尾竜治に対し金一五〇万円を弁済期昭和四三年一一月三〇日、利息日歩二銭七厘、損害金日歩四銭と定めて貸付けたこと、相手方らは昭和四一年一一月五日右債務を担保するため、それぞれその所有の本件不動産に抵当権を設定することを約したこと、ならびに相手方らが右抵当権設定の登記手続に協力しないことが疏明される。
よつて本件仮登記仮処分申請は相当であるから、原決定を取消し、右申請を許すべきもの……。